2025.04.02 手仕上げの価値を再考する

研究開発部の新井です。
今回は、手仕上げの価値について、アーツ・アンド・クラフツ運動の観点から考察します。
近年、AIや工作機械などの技術が進化し、大量生産が当たり前になっている一方で、「人間の手による細やかな仕上げ」の重要性が再認識されています。
本記事では、19世紀後半のムーブメントから現代の金属加工まで、職人の手作業が担う意味を見直してみたいと思います。

 

アーツ・アンド・クラフツ運動とは?

19世紀後半、イギリスで起こった「アーツ・アンド・クラフツ運動」は、大量生産に対する反動として生まれた芸術と工芸のムーブメントです。
産業革命によって工場での機械的な製造が普及した一方、手作業によるものづくりの美しさや職人の技術が失われつつあることを憂いた人々が、この運動を推進しました。

中心人物の一人がウィリアム・モリスです。
彼は「生活と芸術の統一」を掲げ、実用的で美しい手工芸品の制作を奨励しました。
アーツ・アンド・クラフツ運動では、素材の持ち味を生かしたデザインや、職人の手による細やかな加工が重視されます。
これは日本の伝統工芸にも通じるもので、現代でも「クラフトマンシップ」として多くの業界に影響を与え続けています。

 

金型と手作業の価値

私たちの身の回りにあるほとんどの製品は、「金型」によって成形されています。
自動車のボディ、スマートフォンの筐体、ペットボトル、コンタクトレンズなど、量産品の製造には必ず金型が使われます。
金型がなければ、同じ形の製品を高精度かつ大量に作ることは不可能です。

そして、その金型を支えているのが「金型磨き」や「手作業バリ取り」といった精密仕上げの技術です。
いかに最新の工作機械を使って加工しても、最終的な品質を決定づけるのは、職人の手による繊細な仕上げ作業にかかっています。
アーツ・アンド・クラフツ運動が機械化に対して職人の手作業を尊重したように、金属加工の世界においても、人間の手による微調整が最終的な製品の出来を左右するのです。

 

手作業の価値は過小評価されているが、需要は高まっている

現代では、手作業による仕上げの価値が見直されるべきにも関わらず、多くの場面で過小評価されています。
しかし実際には、職人の需要は高まっているのが現状です。
その背景には、以下の3つの要因があります。

1. 高度な品質基準の要求

航空機や精密機器などの分野では、表面処理の仕上げが性能や耐久性に直結するため、精密な手作業が不可欠です。
特に航空宇宙産業では、金属部品の仕上げ精度が安全性に関わるため、職人技術の価値が改めて評価されています。

2. 熟練工の不足と技能承継の問題

少子高齢化の影響で、熟練した職人の数が減少し、新たな世代が不足しています。
そのため、多くの企業は経験豊富な職人の確保に苦慮しており、手作業の重要性を再認識している状況です。
日本の製造業では「技能伝承」が大きな課題となっており、ベテランの技術を活かしながら若手へと継承する取り組みが進んでいます。
たとえば、職人の手の動きをデジタルデータ化して、VRやAIを活用した技能教育を行うなど、新たな試みも始まっています。

3. 先進技術と職人技の融合

AIやロボット技術が発展する中でも、最終的な精度調整や仕上げには職人の経験と感覚が求められる場面は多くあります。
たとえば、AIによる自動検査が進化しても、微妙な手触りや質感の違いを判断し、最適な仕上げを施すには人間の職人が必要です。
技術革新と職人技を組み合わせることで、より高度な製品を生み出すことが可能になります。

 

ジーベックテクノロジーの製品は、金型磨き職人や手作業バリ取りを行う皆さんから高い評価をいただいており、その手作業を支える重要なツールとして活用されています。
私たちは、これからも手作業の価値を大切にし、職人技を支える製品の開発に努めてまいります。

手作業の大切さを共有し、ものづくりの未来をともに考える場として、ぜひインターモールドにお越しください。
研究開発部の私(新井)が、ブース内に設置される“手作業ツール体験コーナー”におりますので、ぜひ皆さんのご意見をお聞かせいただければと思います。

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